アンケート参加漁業者の間では資源が減っているという意識で共通していたが、資源回復を目指す水産改革へ期待より不安が勝る人や改革の存在を知らない人も目立った。インタビューでも資源管理の強化を疑問視する声があった。ただ、漁業者主導の資源管理の限界を訴え、行政主導の管理を求める声も複数あった。
第1回の通り、アンケート回答者の44%は水産改革の存在自体を知らなかった。改革についての情報源は「漁協・漁連」が最多54%で、「政府・水産庁」が39%、「新聞・雑誌・書籍」が29%。
インタビューでは、改革の存在を知る漁業者が「組合長が漁協役員に教えてくれる」(匿名)、「(漁協支所の)青年部で水産庁を呼んで改革について聞いたが、地方の支所は知らないだろう」(阿部誠二氏=宮城県、刺網)と証言。改革の情報伝達は感度の高い地域や漁協の中心人物、ニュースをよく見る人など一部に限られていそうだ。
アンケート回答者は県漁連・漁協などから募ったため、漁協の中心人物が比較的多かったと考えられる。裏返せば、一般の漁業者にはより改革が周知されていない可能性がある。ただし「漁協も、改革内容がまとまっていない段階で具体的に話せなかったのでは」(匿名・山口県)など今後周知が進むという見方もある。
アンケート回答者の改革の印象は「資源が回復する」(回答率21%)など政府の説明と合うものより、「漁業規制が厳しくなって漁業者の収入がしばらく減る」(43%)など不安の方が大きい結果となった。
インタビューでは「改革についてはざっと『漁業規制が厳しくなる』と聞くだけだった。そもそも改革の意図は何か、科学で何を目指しているのか分からず、信用できない」(匿名・巻網)など漠然とした不安意見も。
また不安の一因に「科学的に資源管理をしても本当に資源や漁獲が増えるのか」という不確実性もある。山口県で底引網を営む濱田英樹氏は「(漁獲規制が必要との)データが間違いないなら対策が必要と思うが、漁業規制ばかり強めても地球レベルの環境変化には逆らえない」と語った。
「以前、地元の若手漁業者で対象魚種のサイズ規制を提案したが、年配者には議論の余地がなかった。識者を通じ『資源は1年待てばこれだけ成長する、その分漁獲サイズを引き上げたら産卵数がどれだけ増える』と示したが、『そういう机上の空論に何度もだまされてきた』と否定された」(匿名)との証言もあった。
不確実性があるとはいえ、科学が軽んじられすぎるとの問題提起も。「主対象魚種が激減した。(地元に漁獲量管理はあるが)量は科学的根拠でなく経験知で決めてきた。乱獲が原因との分析もある。一部漁業者の意見で厳しい措置が導入されず疑問」(匿名・引網)、「現在も休漁期間はあるが客観的に資源状態を見て措置を決めているわけではなく、(効果は)あってないようなもの」(匿名・山口県)などだ。
科学が受け入れられない一因に、リーダー層の意向が考えられる。「若手漁業者は年配者に経験を語られると弱い。年配だと科学や資源管理に興味を持たない傾向がある。子育てなどが終わって稼がなくてよくなり自身にも後継者がいなければ、次世代を考える必要性も感じないのでは」(匿名・愛媛県)など、特に発言力ある年配層の興味の低さは複数指摘された。一方で「自分から(管理強化が必要と)言う漁業者は少ないだろう。行政がまとめて保障してくれたら従うと思う」(匿名・山口県)と行政のリードを求める声もみられた。
行政のリードを求める声は他にも「(資源減に)環境的な理由もあるだろうが、人にできるのは獲らないようにすること。管理方法は漁業者が決めるのが1番だが、まとまらないので行政が主導を」(阿部氏)、「漁業許可を与える行政と研究機関が強く立ち入らないと、資源の減少は止まらないと思う」(匿名・引網)などと続いた。
資源管理の改革の趣旨が現場に伝わっていない背景は:
- 漁業者の立ち位置次第で改革について得られる情報が違う
- 科学の不確実性が科学的な漁業管理への不安につながる
- 漁業者の科学の受け止めにリーダー層の意向が絡み得る
- 科学的管理を訴えたい漁業者が一定数いるがリーダー層に(匿名でないと)言いづらい空気がある
―ことなど複合的で、場面ごとで違うようだ。次回は、管理強化に向けた不安や懸念をさらに深掘りする。
EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。
- みなと新聞電子版2020年12月3日配信
- 切り抜き紙面 (PDF, 880KB)
- みなと新聞電子版(会員限定):https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/107147
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