漁業者に当事者意識を 第三者の監視も一案

EDF企画『変化にも透明性と安心感を』― 6回シリーズ第4回

2021-10-19

 水産資源の回復へ、政府は漁業管理を強めようとしている。ただ、漁業を管理する規則をつくっても、それが破られ資源や魚価が損なわれれば、規則を守っている側の漁業者が犠牲になる。まず大切なのは、漁業者らが主体的に「資源を守ろう」という意欲を持ち、協力機運を高めていくこと。また、協力機運を後押しするため監視体制も鍵となる。 

 資源管理は漁業関係者から「漁獲を邪魔するもの」と捉えられることも少なくない。本来は将来の資源と漁業者の収入を守り高めるためのもの。このことをより多くの漁業関係者が共有しつつ、科学者などと対話を深めることで「自分たちの経営のためになる」と納得できるような管理策を探ることが重要だ。 

 管理規則に納得している漁業者が多いほど、漁業者同士がお互いに「規則を守っているか」と注意し合える。漁業者自身が「他の漁業者は規則違反をしていない」と思えるほど、「自分が規則を破れば批判されるし、規則を守れば資源を残せる」と管理意欲が高まりやすい。 

 規則順守意識向上へ第三者の監視も有効。資源回復に成功した米国西海岸の底魚漁も2011年、操業時の監視員乗船を強化。規則を守る意識の高い漁業者らからの提案だったが、「当初、(周囲の)漁業者からプライバシーや船内の狭小化、コストなどを不安がる意見もあった」(同管理に携わってきた環境保護基金〈Environmental Defense Fund〉)。 

 漁業現場で監視策への納得感を醸成するため、EDFは「信頼と信念につながる真の対話が必要」とコメントする。本紙取材とEDF資料を基に、次のように不安の典型例と対処方法を考える。 

定着性資源では特に漁業者による自主管理や自主監視の重要性が高い

回遊魚管理など自主管理や自主監視がカバーしきれない場合もあり

〈プライバシー〉

漁業者が商売上のライバルに秘密にしておきたい漁場位置や魚価などの情報が衛星監視やオンライン化で流出してしまう、監視員を漁船に乗せる場合にプライバシーを損なわれるなど心配の声がある。 

 監視員と漁業者と居住スペースの住み分け、漁業データのうち秘匿すべきものの保護などが必要だ。秘匿の内容や方法については日本政府も議論を開始済み。議論が進めば、プライバシー面の不安は緩和が期待できる。 

〈コスト〉

漁業者自ら規則順守を報告する際の手間、監視員を乗せる人件費などが問題になる。「今の米西海岸では、監視されること自体を不安がる漁業者はほぼいなくなったが、コストへの不安はいまだ強い。近年は漁船の約半数が人件費や居住スペースのかからない電子(カメラ)監視へ切り替えた」(EDF)。 

 コスト削減の切り札となる電子機器による遠隔監視。カメラに加え、人工衛星による漁船位置・挙動の把握、油圧センサーによる漁具の巻き取りの記録、スマホアプリなどを用いた漁業者自身での操業結果報告などが実用化されつつある。カメラ画像で魚種・数量を判別し漁獲報告をより素早く誤りなく行うための技術開発も進んでいる。 

 行政からは機器類の技術開発に加え、機器類を入れる漁業者へも支援策が考え得る。資源管理に協力的な漁業者に補助金・税制・漁獲枠配分を優遇するなどだ。 

〈規制強化〉

現状の日本では一部の漁業関係者から「漁業データを行政に渡すと、それを基に操業規制を強められる」との不安も聞かれる。ただし実際は逆で、データの豊富な漁業ほど資源を枯渇させるリスクが低く、操業規制も緩めでよいということが、国際規則上定められている。 

 米西海岸の監視強化は、一部の漁業者が他の漁業者を説得して実現した。西海岸の漁業者ボブ・ドゥーリー氏は「(監視など)データ類が充実すると、資源評価の不確実性(科学分析よりも実際の資源が多い、少ないなどのぶれ)が減る。結果、すぐに漁獲枠増枠を議論できた」と回想する。 

 無論、監視の充実は漁獲枠を増やす以上に、漁業規則違反を防ぐ=長期的に資源や漁獲を守ることにつながる。また、監視で水産物の合法性や出所を透明化できることが付加価値化につながるとの考えもある。国内でも水産物の透明性をブランド化につなげる「Ocean to Table」プロジェクトなどが進んでいる。 

 監視を「漁業者を縛るもの」でなく「規則を守る漁業者に報いるもの」と捉える。そんな意識共有が大切だろう。日本は先進国の中にあって多くの小規模漁船を持ち、全体を監視するのが難しいといわれるが、「データ収集のできる漁協、誰が漁業免許を持つか把握できる行政、それらの強みを活用する新たな漁業法などを持つのも日本。世界の小規模漁業のリーダーになり得る」(EDF)。 

EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

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