魚種選び獲る工夫 米・西海岸で漁業者の協力組織も

EDF企画『変化にも透明性と安心感を』― 6回シリーズ第3回

2021-10-18

日本政府は主力魚種に漁獲枠を定め、獲る量を制限していく方針。そこで壁となるのが狙っていない魚種が獲れてしまう「混獲」。ある魚種の漁獲枠を守ろうといっても漁業者からすれば「どうしても、その種を混獲してしまうことはある。かといって漁に出ないと仕事にならない」と困ってしまう場合がある。混獲を避けつつ、獲りたい魚種は獲れるような体制が大切になる。 

混獲を避けるための漁具の設計
写真:混獲を避けるための漁具の設計。EDF提供。

 環境保護基金(Environmental Defense Fund)提供で行った国内の若手・中堅漁業者へのインタビューでは、混獲への不安の声が相次いだ。複数の漁業者が近年のクロマグロ管理を例に「日本が国際機関から与えられた漁獲枠を超過しかけた際、国から混獲で死んだマグロまで放流(投棄)を求められた」旨を証言し、投棄による資源の“無駄死に”を批判。混獲の対処方法について「漁法別の具体的な検討や説明が不足している」との指摘も出た。 

 大日本水産会からも「漁業者が積立ぷらす(国からの減収補償)を受けるため資源管理の強化が前提となっている。管理強化自体には反対しないが、混獲投棄問題への対処方法が具体的に見えない。漁業現場に実行できない方法を強いられないか不安」とし、混獲への対処方法の具体化を求める声がある。 

 国内の一部では、特定魚種の混獲を避ける取り組みが既に見られる。混獲物を生きたまま放流する(例・静岡や京都、三重県早田の定置網、福島県・福井県の底引網など)、小さな若魚を混獲しないため網目を拡大する(例・北海道石狩湾のニシン刺網)、漁業者同士が情報交換し小型魚の多い漁場を避ける(例・島根県浜田の底引網)などだ。こうしたノウハウの開発と共有が、より大切になる。 

 前回紹介した、資源回復に成功した米国西海岸の底魚管理でも、当初は混獲投棄に悩んだ。「1,990年代までには多くの魚種の漁獲量管理に入っていたが、当初は枠が緩く、あまり制限になっていなかった。枠は2,000年代に引き締められたが、混獲投棄の問題が目立ち始めた」(EDF) 

 混獲を減らすため、西海岸の底魚漁業者らは協力組織をつくった。漁業者らは、混獲したくない魚種がどの漁場にいるか無線などで情報共有し、その漁場を回避。組織内の複数の漁業者で一部魚種の枠をプールし、やむを得ずその魚種を混獲してしまった漁業者に融通した。漁業者と科学者の協力で、曳網(えいもう)深度や網目サイズを混獲回避向きに変えた漁具も開発。一部協力組織の漁業者らは、混獲防止型漁具を使う、民間企業介入の下で各メンバーの漁獲量・混獲率・漁場情報を共有する―など、公式な契約も結んだ。努力の結果、混獲により枯渇が深刻化していたメバルの仲間などが回復した。 

 EDFは世界各地での経験を基に、混獲投棄を防ぐ専門資料も作成。前述の方法以外にも、漁期の変更=漁期を長めに設定し、混獲物が漁場に少ないタイミングを見計らって操業する、試験操業=漁船が本格的に操業する前に軽く操業して混獲物が入らないか確かめる―など混獲自体を防ぐ提案をしている。 

 同資料は、やむを得ず混獲が起きた場合への対処として、混獲データの提出義務や水揚義務をつくるだけでなく、混獲枠=各漁業者に一定量までの混獲を許す▽枠交換=特定種の枠に余裕のない漁業者が、他漁業者からその枠を譲り受け取る代わり、余裕のある種の枠を差し出す▽コスト補償=混獲物の陸揚げの際、必要経費を除いた漁業者利益相当額を政府に還元し、資源管理などに役立てる▽スペース確保=漁船内に混獲物まで保管できる場を備える―などを提案。こうした方法論は、日本でも応用できそうだ。 

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写真:混獲魚の再放流は国内でも行われている。早田大敷提供。
EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

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EDFは、環境課題に対する解決策を推進する非営利団体です。地域社会や市民団体、学術関係者、および政府関係者に対し、技術的助言や知見の共有、協力支援を通じた活動を行っています。