漁業者と科学者交流を演出 信頼築き双方の知恵生かす

EDF企画『変化にも透明性と安心感を』― 6回シリーズ第2回

2021-10-15

 海の環境が変わっていく中、将来どの魚種を、どの程度の量、どの漁法で獲るべきか。これを考えるため科学の活用が重要だ。一方、日本の漁業関係者の間で「科学を信用できない」という声も強い。科学の確度や精度を高めることはもちろん、漁業者と科学者がコミュニケーションを図ってお互いの知恵を生かし合い、信頼関係を築いていくことが大切になる。 

 環境保全基金(Environmental Defense Fund)提供で行った国内の若手・中堅漁業者へのアンケートでは、水産資源が減る原因を科学的に解き明かしてほしいとの声が支配的だった一方、科学的な分析結果を信頼できないという声も多数派だった。漁業団体からも科学分析の確度・精度を疑う声は強い。 

 米国西海岸の底魚漁業の管理もそれに近い状況だった。乱獲で多魚種の資源が減り、経営の立ち行かない漁船が増えたことで、連邦政府が2000年に同漁業へ非常事態を宣言。科学に基づき漁獲量規制も厳格化されていったのだが、元底引網漁業者のボブ・ドゥーリー氏は「最初、漁業者は科学を信用できなかった」と振り返る。 

 同氏が転換点に挙げるのが2003年。漁業者と科学者が協働し、資源と環境の調査を始めた。「漁業者が調査のデザインにも携われたことで、(漁獲の削減が必要という)科学への信用が増した。他人の作ったスープがまずければ文句を言いたくなるが、自分たちがスープ作りに参加したら文句は言えないというものだ」(ドゥーリー氏)。また「同調査の主力となる4漁船の漁業者らは、他の漁業者に信頼されるリーダー的な存在。その漁業者の前で、科学者らは漁具を正しく使い良い調査をしている様子を見せられた」(EDF)。 

 同調査は、同国海洋大気庁に「底魚の資源評価の鍵となる情報源」と評されるなど資源分析の確度・精度を高めている。 

 同じく2003年に漁業者主導で立ち上げた「海洋資源教育プログラム」も重要だった。希望する漁業者たちと科学者が3泊ほど共に寝泊まりして勉強会を開くもので、費用は当初環境団体などが出し、後年、国の政府が大部分を負担するようになった。漁業者と科学者の間に入る人材(ファシリテーター)も雇い、前向きに意見を交換。「漁業者と科学者、お互いの顔と人となりが分かることで信頼関係が強まった」(ドゥーリー氏) 

 調査やプログラムを通じて科学者と信頼関係を築いた漁業者が起点となり、他の漁業者の間でも科学を信頼する空気が強まったという。 

 科学調査が強まったことに加え、2011年には漁獲枠順守や混獲漁の投棄防止を徹底するため、漁船への監視員乗船が義務化。資源分析の確度・精度が高まったことで漁獲枠を予防的に少なくしておく必要が薄まり、漁獲量制限の順守も担保できた。結果、当初枯渇状態にあった10魚種中8種の資源が10年ほどで持続可能なレベルに回復。主対象30群の今年の総漁獲枠は25万2529トンと2011年当時比48%増(現行の群分けとなった2013年と比べると63%増)だ。 

西海岸の底魚の資源と漁獲枠は増加している

 昨年2月21~25日にEDF提供の連載で紹介した通り、日本でも漁業者と科学者が信頼関係を築いている事例は複数ある。日本の成功例では、科学者側が自ら漁業者との接点を持ったこと、分かりやすく隠し事をせず話をするよう努めたことなどが特徴に挙がった。一方で、漁業規制を嫌う関係者に科学者が忖度(そんたく)し、客観性を失う場面もある。漁業者と科学者が接点を持ち、忖度抜きの真の対話を進めるため、西海岸の方法も参照できそうだ。科学者が漁業者の知識を参考にする機会が増えれば、例えば気候変動による魚の来遊時期や分布の変化を漁業者から聞き取り、「今までと違う時期や海域を調査する必要がある」などと検討し客観的に立証することも可能だろう。 

ワークショップの様子
写真: ワークショップの様子。ドゥーリ―氏提供
EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

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EDFは、環境課題に対する解決策を推進する非営利団体です。地域社会や市民団体、学術関係者、および政府関係者に対し、技術的助言や知見の共有、協力支援を通じた活動を行っています。