官民で環境に合った漁船数へ 慎重かつ早急な議論を

EDF企画『変化にも透明性と安心感を』― 6回シリーズ第5回

2021-10-20

漁業者の資源についての不安へ、対処方法を考える本連載。前回までは主に技術的な不安を考えてきたが、それ以上の不安は漁船数の減少だろう。今後順当に資源が回復すれば漁船ごとの収益や漁船数を確保しやすくなるが、温暖化などの不可抗力で漁船数を保てない展開もあり得る。どれだけの漁船数を守るべきか。非常に慎重な、それでも早期からの議論が必要になっている。

漁船数と収益性のバランスが問われる

減った資源を効率的に回復させるため、政府は乱獲を防ぐ漁獲上限を定め、枠を漁船ごとに割り振る個別漁獲割当(IQ)制導入を進めている。これに対し「漁獲枠が売買可能な譲渡性個別割当(ITQ)制への布石。資金力のある企業が枠を買い占め、小規模漁業者を退出させて利益を寡占し、漁業者を小作人的に扱う方向では」と疑う声が水産業界の一部にある。環境保護基金(Environmental Defense Fund)提供で昨年12月に行った連載では、政府による水産改革の動きがあると知っていた若手中堅漁業者のうち、57%が「改革で大規模な漁業者が得をし小規模な漁業者が損をする」との不信感を示した。 

 資源管理が効果を発揮するには、前回の通り漁業者自身が管理策を信頼し意欲を持てる体制が大切。資源管理の強化に不信感が残る現状、まず寡占化・小作人化の緩和策が問われる。現状日本は漁獲枠の売買を禁じている。仮に将来売買を許すとしても米国の例のように「1経営体で持てる枠の上限を規制する」など方法はある。直接操業しない者に枠を与えないなど、漁業者の小作人化を防ぐ工夫も考え得る。 

 現状の政府の資源評価上、主力魚種の大半は漁業管理を厳格化すれば資源を回復できる見立て。資源が回復するまで補助金や借り入れで隻数を守るというのは一案となる。また昨年の連載では、漁獲を減らしつつ漁業経営を守るため、魚価向上への支援策を求める声も漁業者からあった。 

 だが、国の予算には限りがある。また厳格に漁業管理しても環境要因で資源が枯渇する(例・イカナゴ伊勢三河湾系群)場面もあり、今後の気候変動も相まって船数を支えきれない場面が増える危惧もある。今春、政府の不漁検討委員会では、ある魚種が獲れなくても他魚種を狙えるマルチパーパス(多目的)漁船の導入に加え、漁船数適正化が隠れた話題になった。 

 漁業では限られた資源や補助金を複数の船で分け合っている。資源や補助が少ない場面でも、漁船数が減れば残存漁船は黒字を出しやすくなる。一方、漁船を減らせば漁労雇用も減りやすく、こうした議論は社会的に非難を受けやすい。政府周辺からも「漁船数削減の議論は表立ってしづらい」との声はある。 

 だが、隻数削減を全く議論しないのも危ない。漁船数が多く操業コストが下がらなければ国産魚の値段も下がらず、安い輸入魚に負けたり魚需要が減ったりしやすくなる。コスト高で負債を抱える漁業者も増える。漁船が多いと、温室効果ガスやプラスチックごみなど環境問題への対応も難しくなる。 

 何より、資源量と比べて漁船が多い時には1隻ごとの漁獲枠が足りなくなって枠を守れない漁業者が続出し、その埋め合わせで混乱が起きる。かといって、科学を軽視して緩い漁業管理をすれば資源がすり減る。近年の日本のクロマグロ管理などを見ても、それが現実だ。決定的に資源がいなくなるまで漁獲量や漁船数を抑える議論を先送りして結局漁船数を支えられなくなれば、むしろ時間的猶予のない中「この漁業は補助金で守りきれないので存続を諦める」などの判断を拙速にせざるを得なくなる。漁業者の痛みはより大きくなる。 

気温変化によるインド洋・太平洋域の最大漁獲ポテンシャルの変化

当然、漁船数の削減には慎重な検討が必要。漁船や漁業者の減少は単に雇用が減るだけでなく、魚体処理に人員を割きづらくなり付加価値化が難しくなる、漁業者の目が減ることで外国船の監視がしづらくなるなどの副作用も生み得る。付加価値の重要な高級魚種を獲る、国境離島の漁場で外国船を警戒するなどの役割を持つ漁業では特に船数の維持が重要。漁業の役割を見定めず、乱雑に減船するなら危険だ。 

漁船数の適正化を議論する場合も、各漁業の役割や状況に応じて「これだけの漁船数は守る」と構想する。また資源豊富な魚種を狙う漁法・漁場転換、漁獲量を抑えても利益を出す付加価値化、失職者を極力出さずに隻数削減や経営効率向上を目指す協業化、引退する漁業者の受け皿や収入源の確保など、副作用の防止策を同時に論じることが大切になる。 

EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

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