国際学術誌 Marine Policy(マリン・ポリシー)10月号に掲載される研究によると、水産資源の持続可能な利用を推進する漁業管理政策を日本で採用した場合、2065年までに日本周辺海域の資源量が3割増加するとともに、水産業で55億米ドル(約5860億円)の年間利益の増加を生み出すことができることが示されています。
持続可能な環境保全のために活動する非営利団体、EDF 環境保護基金 (Environmental Defense Fund、以下 EDF、本部:米国ニューヨーク、代表:フレッド・クラップ)、岩手大学、東京海洋大学、ノルウェー経済大学の科学者が執筆したこの研究は、日本の漁業管理政策が水産業および水産資源に与える影響を評価しました。その結果、現在の漁業権制度に加えて、科学に基づいた漁獲量の制限を導入し、漁業者による長期的な経済最適化を促すことで、現状に比べて漁獲量、利益、および水産資源量を増やすことができることが示唆されました。
2018年12月、日本政府は70年ぶりの漁業法改革を行いました。本研究は、こうした方向性に基づき、①漁獲量の現状維持、②最大持続漁獲量の達成、③漁業者管理による経済最適化の3つの漁獲政策シナリオを、資源動態モデルを用いて初めて評価しました。結果、水産改革により長期的な経済最適化を目指すことで、短期的には漁獲量や漁業収入の減少をもたらすものの、長期的には水産資源量の回復に寄与するのみならず、漁業就業者の経済的利益の増加も期待できることが明らかになりました。また、本研究で評価されている政策アプローチは、米国など世界各国で展開され、成功を収めています。
本研究の発表にあたり、EDF 海洋プログラムのジャパン・ディレクターの大塚和彦は下記のように述べています。 「本研究に協力頂きました皆様のご厚意に深謝いたします。EDF は日本政府による水産日本の再建を支援するため、海外における成功事例を踏まえて、我々が持つ専門知識を提供し、日本の魚食文化の継続的な繁栄に貢献していく所存です。日本政府が歴史的な漁業改革を実施するにあたり、日本の水産業および海洋環境の持続性を向上できる大きなチャンスが訪れています。本研究は、適切な漁業管理方法を導入することで、漁業者と魚の両方にとってより良い結果をもたらすことができるという証拠を提供しています。本研究によって提示された、我が国の水産業がもつ潜在力の評価が、関係各位が目指すべきゴールを議論する際の一助になれば幸いです。」
また、共著者である岩手大学農学部の石村学志准教授は、下記のように述べています。「本研究は、日本の漁業の潜在的可能性について、漁業の柱である「資源」と「経済」を融合させて分析したはじめての研究となりました。現在、我々の研究グループでは、EDF とともに、昨年の水産政策改革の方向性に基づき、本研究を各都道府県単位、漁協単位でおこなえる資源管理・政策ツール展開へと進めています。本研究を日本の持続的漁業構築に向けた実践的な道具へと深化させることで、実学としての水産学の可能性を探りたいと考えています。」
また、共著者の一人で EDF の海洋プログラム研究開発ディレクターのロッド・フジタは下記のように述べています。 「日本は世界で最も重要な漁業国の1つです。水産業の持続可能性を確保することにより、日本は自国産業を活性化できるだけでなく、世界の海洋資源の保護と管理を改善する努力において、これを先導できる地位に就くことになるでしょう。」
本研究は国際学術誌 Marine Policy(マリン・ポリシー)10月号に掲載される予定で、オンライン版で先行公開(https://doi.org/10.1016/j.marpol.2019.103646)されています。
英文タイトル:Alternative outcomes under different fisheries management policies: A bioeconomic analysis of Japanese fisheries
タイトル(訳):異なる漁業管理政策下における選択可能な成果:日本漁業における生物経済学的分析
著者:Kanae Tokunaga (EDF), Gakushi Ishimura (Iwate University), Shigehide Iwata (Tokyo University of Marin Science and Technology), Keita Abe (Norwegian School of Economics), Kazuhiko Otsuka (EDF), Kristin Kleisner (EDF), Rod Fujita (EDF), 著者(日本語表記):徳永佳奈恵(EDF)、石村学志(岩手大学)、岩田繁英(東京海洋大学)、阿部景太(ノルウェー経済大学)、大塚和彦(EDF)、クリスティン・クライスナー(EDF)、ロッド・フジタ(EDF)
リンク:
New Research Finds Japan’s Fishing Fleet Could Sustainably Increase Profits by Billions (英語)
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