漁業者の不安解消へ 管理強化の不利益対策を

EDF企画 『若手・中堅漁業者に聞く!未来へのホンネ』9回シリーズ第8回

2020-12-09

 若手・中堅漁業者への取材では、資源の減少やその原因の不透明さ、漁業管理を強める場合のデメリット(減収など)といった不安を挙げる声が多数出た。今後の漁業管理や資源回復に向け、科学に平易さや漁業者の知恵を加えて高確度で資源減少の原因を探る、漁業管理策に科学を生かし合意を図る、管理のデメリットへ対策を練る―ことが必要となる。 

科学ニーズに信頼度UPで対応

 漁業者の9割近くは資源減への科学的な原因究明を求めたが、科学の確度をあまり信用できていなかった(連載第2回参照)。科学の信用を下げる要因に、科学情報に触れる機会の不足、説明の難しさ、科学者が漁業現場の知見を生かしていないことへの不満、科学者が漁業者の顔色をうかがって分析を曲げてしまう忖度(そんたく)などが挙がった(第3回参照)。 

 解消には「科学者が漁業者と交流し分かりやすく説明し、漁業現場の知見を聞き取る(正しい知見は活用し科学の確度を高める)」機会づくりと、「科学者側が客観的な根拠なく分析結果を曲げない」体制づくりの両立が必要となりそうだ。 

 水産研究・教育機構の宮原正典理事長は「各関係者の話し合う場が必要。漁業者と科学者が一緒に、環境が資源に与える影響を調べる機会など、きっかけをつくりたい」と意欲的。本連載の取材手法などに助言を寄せた東京海洋大学の松井隆宏准教授は「科学者に、漁業者へ分かりやすく伝える努力が必要。同時に、科学者と漁業者の間に立ち説明役を担える人材を、国と大学が連携し育てるべきでは」と提言する。 

改革意識の共有と副作用へ手当て

 科学的な漁業管理の推進について、資源を回復させようという国の意図は漁業者にほぼ伝わっておらず、疑問や不安の声が多数派。だが、いずれの声も “絶対反対” ではなく、国の話が限られた立ち位置の漁業関係者以外に届きづらい(第4回参照)、管理で生じ得る副作用への対策が見えない(第5~7回参照)などの内容。むしろ、表立って言いづらいだけで、科学や行政の主導なしに十分な漁業管理はできないとの指摘も複数あった(第4回参照)。 

 今後、漁協系統や行政などは改革の意義や、副作用への対策について説明を求められるだろう。副作用対策としては、小規模漁業への配慮など公平感ある漁獲枠配分(第5回参照)、操業への影響とその対策(混獲対策、監視、秘密保護に配慮したデータ公開など)の具体化(第6回参照)、減収への埋め合わせ策(第7回参照)などを考える必要がある。 

 水産庁は、科学的根拠のある漁獲可能量(TAC)管理の対象魚種を増やす予定。TAC以外の資源管理も、最善の科学的根拠に基づき計画・公表する資源管理協定へ移行する。定置網の混獲対策や漁業データの公開について有識者会議を開いており、来年度は減収対策事業も増強する方針。今後、枠配分の方法や監視などにもより細かい議論が重要となりそうだ。 

 東京大学の牧野光琢教授は「持続可能な社会を目指す上で、今後水産業はますます重要になる。新漁業法の下、国民が安心して魚を食べ続けられるよう、漁業者・行政・科学者が多様な現場で学びあうことで、工夫や新しい知恵が蓄積・共有されてほしい」と語る。 

EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

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