前回、漁獲数量などを科学的に管理するよう求める声が漁業者から一定数ある一方で、漁獲枠配分の公平性などの不安意見も多いことを紹介した。加えて「漁業現場の実際の動きがどう変わるか」読めないことも不安を呼んでいる。
政府は水産改革で資源減の解消を狙う。だがアンケートで改革を知っていると答えた28人に印象を聞くと、「資源が回復する」は21%、「漁業者がもうかる」は4%で、「大規模な漁業者が得をして小規模な漁業者が損をする」が57%、「成果が出るまでに時間がかかる」が46%、「漁業規制が厳しくなって漁業者の収入がしばらく減る」が43%。政府の意図と漁業者の印象に開きがある。
漁業者本人の経験や漁法の特徴に基づく不安意見がインタビューでも多数出た。最も挙がったのが、クロマグロの漁獲枠が実質的に守られなかった経験。漁獲枠を守るため、入網してへい死したマグロまで放流(投棄)を求められる漁業者が続出した。「近隣の定置網にマグロが入網し死んだ。死んだマグロを(市場に)持っていったら怒られて捨ててくださいとなった。(資源保全にならないのに)おかしい。世間体的に数を合わせようとしているのでは」(北澤直諒氏=千葉県、釣)、「混獲のマグロは逃がしても死ぬ。利益は要らないので市場に出せないのか」(匿名・巻網)、「マグロ投棄など、国は地域の実情とかけ離れたいい加減なことをするところがある」(匿名)など憤りの声が続いた。
マグロ管理で投棄が続いてしまった背景に、狙っていない魚種が獲れてしまう「混獲」がある。山口県で底引網漁に従事する濱田秀樹氏も「一方的に(魚種別の漁獲規制で)『この魚を獲らないで』と言われても、その種類を狙って避けることはできない。『網に入っても生きていれば放流する』など漁法別の具体的な検討や説明が不足しているのでは」と語る。
また、マグロ管理の問題点に漁業者の納得感もある。管理に「意義がある」と納得できなければ、従わない漁業者が増えかねない。3年前に北海道の漁協がマグロの漁獲枠を超えて獲り続けた当時も、関係者から「その漁協はマグロ管理に納得していない様子だった」との証言があった。
今回の取材では、マグロ管理以外に「漁場の区域違反をしている漁業者が多数派で、黙認されている。区域は古くからあるが、なぜ保護されているかという目的は知らないし共有されていない。『違反してもバレなきゃいい』という空気があり、海上保安庁の監視の目を避けるため連携する漁業者集団もいる。(解決には)監視を強くするしかないのでは」(匿名・底引網)との声もあった。
濱田氏は漁業や資源のデジタルデータを集める国の構想も不安視。「漁場など漁業者個人のデータが漏れてしまうと聞いた」とし、抵抗感を示した。こうした抵抗感は水産庁も認識しており、今年度、「漁業者が企業秘密的に扱っている漁場などの情報をどこまで秘匿するか、漁業者にデータ提供を求めるにあたりどのような見返り(海の環境の予報や漁船の衝突防止、加工流通の効率化・付加価値化など)を用意できるのか」などを有識者と議論している。こうした議論が今後も重要になりそうだ。
資源管理で漁獲量が減る場合、それでも水産業者が減収にならないための高価格化も大切になる。宮城県で刺網漁をする阿部誠二氏は「操業を減らして体に余裕が出た時、保冷を丁寧にするなど品質を上げる取り組みをするとか、品質を認めてくれるよう買受人とも話すとか、経営をセットで話さないと現場は(改革に)納得しない」と指摘。「(震災後、操業が減って資源回復した)福島県の試験操業を見ると、月の操業8回でわれわれの3カ月分くらい稼ぐ。2年くらい補償付きで資源管理して生産が回復したというモデルケースを行政主体でつくってほしい」と支援を求めた。
漁業者が国の改革に不信感を持つ背景に、改革のデメリットや自身に求められる対応(混獲対策や監視、個人情報保護など)が具体的に示されないことがあった。そして、これら以上に要望が多かったのが、阿部氏の挙げたような、行政による減収対策。
次回、減収補償を深掘りする。
EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。
- みなと新聞電子版2020年12月7日配信
- 切り抜き紙面 (PDF, 940KB)
- みなと新聞電子版(会員限定):https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/107217
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