連載主旨
2020年12月1日、改正漁業法が施行される。政府はこれで科学的根拠に基づく漁業管理を強める方針だ。狙いは魚介の資源を増やし、落ち込んだ漁獲量や漁獲額を回復させることだ。本紙は、未来を担う若手・中堅漁業者の反応をアンケートとインタビューを通じ調査した。「現時点で科学に対する信頼度は低いが、資源の減った原因の科学的な究明が求められている」「漁業管理の強化を求める声がある一方、過去の管理での苦い経験を思い出し不安がる声も多い」「漁業への好影響を目指す改革の意図が全く正しく伝わっていない」ことが見えてきた。若手・中堅漁業者に未来へのホンネを9回連載で紹介する。
第1回本文
本紙は2020年9~10月、主要都道府県の漁協系統などに漁業や資源の将来ついて、極力多様な考え方の漁業者にアンケート回答を依頼した。アンケート対象は10年後も漁業を続ける意思を持つ漁獲漁業者。長崎、岩手、山口、鹿児島、三重、愛媛、沖縄、福岡、宮城、静岡、大分、福井、富山から計50人の回答を得た。アンケート結果の概要は次の通り。
資源量の科学評価に改善を
「自身の主力漁法について感じる問題」として「問題を感じる」または「とても問題を感じる」との回答が最も多かったのは、「魚介が以前のように獲れない」(回答率87%)。2位の「魚介の価格が安い」(76%)を10ポイント超上回った。
以前のように獲れないとした人に原因を問う質問で「そう思う」「とてもそう思う」の回答率が高かったのは、資源の減少(89%)と分布域の変化(76%)。資源減の原因の質問では、水温や海流(91%)が最多で、続いて汚染や栄養量などの変化(61%)、獲り過ぎ(54%)が挙がった。
科学的に調べた資源量や増減について「ある程度信用できる」「信用できる」との回答は30%に対し、「あまり信用できない」「信用できない」は44%だった。ただ、政府の科学的な漁獲制限に協力する条件として「魚介が減ったり増えたりする理由を解明する」に86%の回答者が「必要」「とても必要」と答えた。
政府に取り組んでほしい施策を順位付けする質問で、最も平均スコア(1位=8点、2位=7点…8位=1点)が高かったのは「水産物の販売促進・飲食業の需要喚起」で6.9点。続いて「漁業経営安定対策」が5.8点、「資源調査・評価の充実」が4.66点、漁船リース事業など「漁業の競争力の強化」が4.16点と続いた。
環境要因などでの資源減少は回答者の共通認識と言えそうだ。また現状の資源評価に信頼度は高くないが、資源が減った原因究明へのニーズが高いという結果だった。
多かった改革への不安
漁業者の悩みである資源減について、政府は改革で解決を狙う。にもかかわらず回答者の44%は水産改革の存在自体を知らなかった。改革を知っていると答えた28人に印象を問うと、政府の意図に合う効果として「資源が回復する」が21%、「漁業者がもうかる」が4%、「漁村が活性化する」が7%。一方、不安視するような印象として「大規模な漁業者が得をして小規模な漁業者が損をする」が57%、「成果が出るまでに時間がかかる」が46%、「漁業規制が厳しくなって漁業者の収入がしばらく減る」が43%だった。改革への政府への意図と漁業者の印象の間に乖離(かいり)が見られた。
改革についての情報源は「漁協・漁連」が最多の54%。続いて「政府・水産庁」39%、「新聞・雑誌・書籍」29%だった。
アンケート回答者のうち11人にはインタビューも実施。対象者は、改革に積極的な意見と慎重な意見の両方が含まれ、かつ漁法が多様化するよう努めた。これらを踏まえ、次回から漁業者の声を届けていく。
- アンケート依頼対象:主要漁業権(のべ漁業経営体数上位12道県と県別漁獲量上位10道県、その他漁業形態の特色の強い県)の漁協・漁連の漁青連(千葉のみ県行政の漁業士会)窓口。窓口側には、経営体数の多い県ほど多くいただけるよう求めつつ、「改革に対して不安姿勢や慎重意見を持つ方と、賛成姿勢や積極意見を持つ方、極力多様な志向を持つ方」の回答を、県内での漁法別の重要度も勘案して回答者選びをお願いした。
- インタビュー対象:改革について何らかの印象を回答し、かつアンケートの最後に設けた自由回答欄に何らかのコメントを残した回答者7人に依頼して、うち6人の回答を得た。6人以外で、自身の漁法の管理方法について具体的な問題意識や改善策を記していた5人も対象とした。
EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。
- みなと新聞電子版2020年11月30日配信
- 切り抜き紙面 (PDF, 1.1MB)
- みなと新聞電子版(会員限定):https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/107044
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