やらぬ理由より今できることを 浜ごとで将来描き水産復興

EDF企画 『日本の資源管理最前線』― 8回シリーズ最終回

2020-02-27

ここまで、漁業を適度に管理し、水産資源を増やしていく道を考えてきた。だが、漁業管理は水産業を守り成長させる方法の一つにすぎない。 

【不安7. 資源管理だけで大丈夫か】

 例えば、漁獲を抑えるだけで対処できない環境問題。取材中も「温暖化で資源に影響が出ている」(石狩湾漁協)、「黒潮の大蛇行からか、藻場が衰退してイセエビの餌場がなくなるのではないか心配」(三重外湾漁協和具海老網同盟会)など不安の声があった。 

 伊勢湾・三河湾のイカナゴ資源は1970年代後半に減った後、毎年科学的な漁獲規制で一定の産卵親魚が海に獲り残されるようになり復活。漁獲が安定していた。だが2015年夏ごろから姿を消し、2016年以降は禁漁が続く。2015年の春漁でも親魚を残していたこと、翌年以降禁漁していることから、乱獲ではなく自然現象で大量死したとみられ、原因として「水温上昇が疑われる」(愛知県漁業生産研究所)。 

 気候変動による資源への影響は大きな不安材料だ。水産研究・教育機構によると、日本近海のスルメイカ資源の激減も、2015~2016年の水温条件の悪さが引き金となった可能性が高い。また水温上昇の一因とみられる二酸化炭素は、海水のアルカリ性を弱め甲殻類や貝類、サンゴを育ちづらくするという予測もある。 

 一方で、気候変動で分布が変わり獲れやすくなる魚もいる。例えば水温上昇でブリが北海道へ、サワラが山形や青森へ北上し始め、新たな漁獲物として定着。人気を集めるようになった。 

変化対応にICT 

 環境変化に対応するには、原因と対策方法の整理が大切になる。沖縄では、漁協の主導で県のノウハウを生かし、人の流す赤土が海の環境に与える影響を調査。データを基に、赤土問題の原因となっている産業に対して対策を求めた例がある。 

 対策をスムーズにするため、将来を予測する情報通信技術(ICT)の開発も進んでいる。例えば気候変動の中で、どの魚がどこで獲れるようになるかを最新情報を基に分析して対応する。連載第2回や6回のように、水温や潮流条件から、どこの海域でどんな魚が獲れそうか精度よく予測する技術は開発されつつある。 

遠隔魚探で漁獲を予想
写真: 遠隔魚探で出航前から漁獲を予想する早田大敷

 また、ICTは資源や環境以外の面からも水産経営に役立つ。漁場や漁獲を予想できれば、熟練の勘がない漁業者も、漁に出やすい。漁業者の人手不足や燃油の浪費も解消しやすくなる。 

漁獲を記録し漁獲予想に役立てる
写真: 魚種を記録し漁獲予想に役立てるゲイト

 漁船が「どんな魚を何キロ揚げそうか」と予想・速報できれば、獲った魚をより需要のある地域や加工場のある漁港に揚げに行きやすい。漁業者と水産加工場が連携を強めれば、商品開発やPRの機会も増える。さらに漁獲予測は、観光客を漁業体験に誘致することにも有効だ。 

 激減したスルメイカは今、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の追い打ちを受けているとみられる。IUU漁船の動きをつかむため、人工衛星などから監視する取り組みも進行中。取り組みには日本の水産研究・教育機構に加え、米国のICT大手グーグルなどが参加しており、将来的には、IUU漁業を疑われる船や国を特定し、輸入規制などの対策を取れる可能性もある。 

 環境や経営面などいろいろな情報を集め、広い視野で漁業の未来を考える時代が来ている。漁業ごと漁村(浜)ごとで、目指す未来は違うだろう。一体どんな未来を望むか、浜ごとで話し合うことが必要になる。この連載のスポンサーである非営利団体 EDF(環境保護基金)海洋部門の大塚和彦日本代表は「津々浦々の先進事例に学び、未来志向で水産日本復興を」と呼び掛ける。 

 資源管理は浜の未来を考えるのに必要な、テーマの一つ。そして困難を伴い、時に争いを生む、避けられやすいテーマでもある。だが、連載で見てきた通り、管理で資源を増やせる場面は多くあり、実際に困難と向き合って乗り越えてきた人たちも全国にいる。彼らの勇気と知恵から学べば「やらない理由」ではなく、「今できること」を考えられる。そして、関係者は前向きに浜と資源の将来を話し合ってほしい。 

※この連載は今回でおわりです。 

EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

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EDFは、環境課題に対する解決策を推進する非営利団体です。地域社会や市民団体、学術関係者、および政府関係者に対し、技術的助言や知見の共有、協力支援を通じた活動を行っています。