【不安5. 科学の質は上がるのか】
これまで、漁業者と科学者の協力体制の大切さを見てきた。ただ「科学で海の資源量を調べ、乱獲にならぬ範囲に漁獲を抑えよう」といっても、調べられる海域や魚の種類には限界があり、分析自体を100%正確にすることも不可能。その中で、少しでも多く、より正確に海や資源を知るため、漁業者と科学者がタッグを組む例がある。
漁師ファーストの手軽なデータ収集
魚市場のデータは科学にも生かせる。ただ、データが手書きだと、書く側の市場にも、読んでコンピューターに入力する側の科学者にも負担だ。手間を省く情報通信技術(ICT)が大切になる。
北海道の留萌では漁業者がタブレット端末にデータを入力し、資源の分析に役立てた。ナマコ漁業者の米倉宏氏は「(技術開発を担う)和田雅昭はこだて未来大学教授の”漁業者ファースト“姿勢があったから」と思い返す。和田教授は漁業者の意見を聞き、ノートパソコンより起動やタッチ操作に時間のかからないタブレットアプリを使うなど、仕事の邪魔にならない方法を開発。「年配の漁業者も協力しやすくなった。またデータを自分たちで集めたこと、分析結果が分かりやすく示されたことで科学分析を信用できた」(米倉氏)
漁業者同士は各船の航跡のデータも共有し、特定の漁場に船が集中してしまうことを避けるなどにも役立てている。
写真で漁獲物判別
山口県・下関漁港などを拠点に底引網を営む昭和水産(愛媛県八幡浜市)は、水産大学校(山口県下関市)協力の下、ICTでの漁場予測を進める。魚種別漁獲量を手間なく記録できるコンピューターや自動船舶識別装置(AIS)、衛星利用測位システム(GPS)を漁船に、水温、塩分などのセンサーを漁網に搭載。このデータを使い、どんな環境条件でどの魚種が獲れやすいか、どの海域がどんな環境条件になりそうかなどを予測する。
同社の宮本洋平専務は「漁場の位置を分析しやすい」と喜ぶ。ICTを入れた理由を「アカムツ(ノドグロ)資源が目に見えて減るなど将来の経営が不安」と説明。ノドグロは小型魚の乱獲で減りやすいとされるが、「島根では、小型ノドグロの多い海域で操業を控える例がある。(船がどの漁場で操業したかを示す)位置情報を明かしたがらない漁船もあるが、もし漁場保護のルールや位置情報を他船と共有できれば、小型魚保全を考えたい」と意欲を示す。
また同校は、写真で撮った魚の種類や量を人工知能で判別しようとしている。写真でノドグロの大きさを測る技術は完成間近。箱に整理された普通サイズの銘柄なら「箱内の平均体長を誤差0.1センチ以内、体重の誤差10グラム以内くらいで当てられる」(水産大学校の徳永憲洋講師)。
今後は箱に整理されていない魚の測定や、魚種の判別が課題。「データの蓄積が進めば、ベルトコンベヤー上で数尾の魚が重なった状況でも、魚種別の漁獲量を記録できるのでは。データ収集のための人の確保や現場研究が必要」(同)
同校は「産業とICTをつなぐ、技術と人材を育てたい」(同校の松本浩文准教授)と意気込む。
定置網にカメラ 陸から漁獲予想
ゲイト(東京都墨田区)は三重県に定置網など複数の漁場を持ち、漁獲や観光客の漁村体験に活用。定置網ではセンサー付きのブイで水温や潮流など環境条件を計り、毎日獲れた魚種を記録する。どんな条件の日にどんな魚が獲れるか分析する構想。通信企業と提携し、5G回線で水中カメラの情報を陸上に飛ばして出漁前から網の中を把握する技術も検討している。「どの漁場に行けばどの魚が獲れそうか」予想し、観光客の喜ぶ魚を狙いに行きつつ、狙わない魚種を逃がす資源管理にもつなげる。五月女圭一同社社長は「ICTを、海を豊かにするため使いたい」と熱弁する。
現状の日本の資源管理計画の進捗(しんちょく)を「8割近くが、資源状態の評価基準として不十分な漁獲量や魚価などで評価・検証している」(自民党行革本部)と課題視される。ただ、科学の質が高まれば、より多くの魚の資源状態を見て計画を作れそうだ。
EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。
- みなと新聞電子版2020年2月25日配信
- 切り抜き紙面 (PDF, 1.7MB)
- みなと新聞電子版(会員限定):https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/99276
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