【 EDFスポンサー記事】水産資源管理新時代〈2〉

現場・科学・行政で対話を

2024-10-01

資源管理の意義共有へ

 水産資源の回復へ、より多くの漁業関係者が納得・協力できる方法を、米国の環境団体エンバイロンメンタル・ディフェンス・ファンド(EDF)の提供で考える連載の第2回。今回は漁業者と科学者、行政官が分かり合うための「場づくり」がテーマとなる。

 政府が資源の維持回復に向けた獲り控えを促す際、漁業現場から、漁獲や収入の減少、将来的に本当に資源を維持回復できるのかについて、心配が出るのは当然。研究者が科学について分かりやすく伝え、現場からは不信感や改善案を政府側に出して、双方の信頼関係の醸成や科学・資源管理の改善を図る取り組みが、わが国でも求められつつある。

 水産資源の増減や原因を科学して管理する際、必要なデータを提供し、獲り控えなどに取り組むのは漁業者。漁業者の理解や協力は非常に重要だ。EDFは「多くの事例から、漁業に関する科学や管理のプロセスに漁業者自身が関わることが重要と示される。しかし、漁業者から見て、管理策を議論するための透明かつ開かれた枠組みがなく、自らの意見が適切に反映されているか信じられない場合も多い」と指摘する。

 米国も、過去に同様の経験があった。解決のため、2000年代初頭、米メーン州で「海洋資源教育プログラム(MREP)」が立ち上げられた。漁業者は研究者や行政官と1週間程度、科学と管理を学び、信頼関係を構築しながら地域漁業管理委員会(同国で海域別の資源管理政策を決める会)に参加して科学的に発言できるよう知見を身に付ける。

 MREPでは「参加者同士の顔と人となりが分かることで、信頼関係も強まった」(米西海岸の元漁業者)。当初は環境保護団体が費用を負担したが、後年には国が費用負担するようになり、他海域の政策決定にも広がっていった。後に「MREPに参加した漁業者が国の漁業管理審議会や諮問委員会のメンバーなどとして、政策決定に携わるようになったケースは、米全土で数百に及ぶのでは。漁業者が自ら声を上げるようになり、意思決定が改善されたことは、米国漁業史の重要な一歩といえる」(同)。

Mini game in Kyoto

京都で行われた勉強会で資源量推定のミニゲームを行う漁業者ら(日本サステナブルシーフード協会提供)

日本でも取り組み 漁師と官学、信頼づくりを

 米国でのMREPの経験にならい、日本でもEDF主導の下、7月25~26日に京都市内で、全国底曳網漁業連合会(全底連)や水産庁、水産研究・教育機構・関係自治体、日本サステナブルシーフード協会などの有志チームも参画の上で、初の「漁師の資源管理勉強会」を開いた。

 試験開催の今回は、石川から島根にかけての日本海でズワイガニを獲る漁業者を招いた。資源管理のセッションでは、経済学者や行政官が、ただ資源を増やすだけでは漁業の成長産業化にはつながらず、魚価や供給の安定性などを保ち、関係者の生活を守ることが重要だと論説。魚価を高めるための漁獲ペースの調整などを議論するためにも、資源の安定が重要になると説明し、資源管理の意義を共有した。

 科学のセッションでは、ズワイガニなどの漁獲可能量(TAC)の算定の基にしている最大持続生産量(MSY)理論も解説した。産卵する親魚の量を多すぎず少なすぎず適度に保つことで、ちょうどよい量の卵が産まれ、子世代同士が争いすぎずに済み、多く成長できる旨を説明。産まれた卵や仔稚魚(カニ)がどれだけ多く漁獲対象サイズまで生き残るかは環境要因にもよるが、適度な親魚量を海に保つべく漁獲圧を抑える意義はあると紹介した。海域全体の資源量を推定する際、網を引いた面積と、そこで得られた漁獲量に、海域の総面積を掛け合わせる面積密度法についても、漁場に見立てた箱の中に、魚に見立てたビーズを獲るミニゲームで体験学習した。

 2日目には鳥取県の研究者が、ズワイガニのTAC管理に漁獲のペース調整や低単価規格の個体の保護などを組み合わせ、魚価向上を達成した事例を説明するなど、資源管理の重要性をさらに共有。会が進むにつれ漁業者からの質問が増えた。参加者らからは「役立つ技術を学び再認識できた」「(今回のように)府県をまたいで漁師さんを中心に関係者が参集する自由な意見交換の場はなかなかない」などの感想があり、勉強会の継続や、他魚種への拡大を求める声も続出した。

 資源管理を学び知恵を出したい、という漁業者のニーズは確実にある。ニーズにいかに応えるか。国の水産研究予算は縮減が続き、漁業者との対話に時間を割けないという研究者の声も目立つ近年だが、対話の大切さが共有され、勉強会の予算や人員が確保されるよう期待したい。

Participants of MREP

京都の勉強会で打ち解けた様子の参加者ら(日本サステナブルシーフード協会提供)

一般財団法人EDFジャパン(EDF Japan Foundation)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

 

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EDFは、環境課題に対する解決策を推進する非営利団体です。地域社会や市民団体、学術関係者、および政府関係者に対し、技術的助言や知見の共有、協力支援を通じた活動を行っています。