再放流や枠融通など課題
米国のエンバイロメンタル・ディフェンス・ファンド(EDF)提供の下、水産資源の回復や有効活用を考える本連載。前々回の底引網では、狙っていない魚が獲れてしまう「混獲」が課題となった。同じく混獲が避けられない漁法である定置網、その主対象であるブリの管理では、特に丁寧に方法論を考える必要がありそうだ。
太平洋のブリの親魚量資源は2010年以降増え、その後11万~20万トンで推移する。ただ政府は、今後、ブリと合わない環境条件の年も来ると想定しつつ着実に資源を確保するには、毎年22・2万トンの親魚資源の保全が必要と分析。現在、資源の維持回復に向け漁獲可能量(TAC)管理を検討している。
国内のブリ主漁法は巻網(漁獲シェア39%、21年)と定置網(同52%)だ。定置網は水中に迷路のように網を張り、入り込んだ魚を獲るもので、どの魚種が入る/逃げるか、コントロールすることは難しいとされる。
近年、気候変動で北上するブリを新たな特産品としている北海道函館市の南かやべ漁協は「クロマグロTACのような負担がないか不安」と吐露する。クロマグロのTACを守るべく、入網の多い6~7月には「毎日のように網内表層部にある出口を開放している。その際、他種の魚も少なからず逃げてしまう」という。同漁協は資源管理の必要性自体に理解を示し「定置でもできる方法について知恵を出し合い、できることはしたい」と強調。一方、本紙取材によると、全国の定置網関係者の中にはブリTACへの慎重意見も少なからずあるようだ。
ただし、TAC導入を積極的に求める定置漁業者もいる。青森県内で定置網を営むホリエイで取締役を務める野呂英樹氏は「近年獲れづらくなっているサバなどに代わりブリへの漁獲圧が高まる可能性、海洋環境が大きく変化している中で資源への影響を考えたら、資源の将来が不安」と憂慮。北海道や三陸、伊豆などで定置網を営む泉澤水産の泉沢宏社長も「資源管理は、資源の回遊範囲の全体でやらないと意味がない。地域的な自主管理に任せすぎた結果が現状の日本近海での資源減」と法的な管理体制を必要視し「ブリ資源は豊富とされるが、17年から減っていると評価される」と危機感を示す。
加えて、ブリは体表の傷に弱いクロマグロと違い、網ですくわれても再放流されれば生き残りやすいとみられる。表層付近に群れる性質から「網の表層部に通り道をつくって金庫網(出荷まで魚を生かして入れておく網)に誘導し再放流できるのでは」とみる定置漁業者もいる。
また、一般的にブリはサイズが大きく脂ののった個体に高値が付きやすい。このため、三重県や北海道などの一部で、定置網漁業者が小型のブリを再放流する事例が見られる。昨年7月に水産庁が開いた水産政策審議会の部会でも、水産研究・教育機構の研究者が、未成魚の漁獲を減らすことで資源を安定化しやすく、かつ高単価な大型魚も獲れやすくなるとの見解を述べた。
注意点は、ブリが北海道から九州南部まで広く回遊すること。地域によって獲れやすいサイズが異なる他、一部に小型サイズの需要を持つ地域もあり、中国の日本産水産物輸入停止までは「2キロほどの小型魚が輸出商材として人気を得つつあった」(山陰旋網漁協)。小型魚の放流を一律で義務付けると、小型魚を多く獲ったり売買したりする地域に負担が集中しやすい。
定置で求められる実効管理
地域、獲り方など検討焦点
以上から、漁獲規制に際しては「どの地域で」「どのような獲り方を」目指すべきか―の検討がポイントとなる。地域ごとに、狙っていない時期・規格のブリが大量入網すれば再放流する、情報通信技術(ICT)を生かし各サイズの需要ある消費地への出荷を強め魚価を高める―など、さまざまな論点があり得る。
元水産庁長官の長谷成人氏は昨年3月の講演で、ブリ以外にサワラ、ホッケ、ヒラメなでも漁獲シェアの数十%を占める定置網について、実効的な管理を必要視。獲り控えの必要性が高いタイミングとして、管理すべき魚種がまとまって入網した際一定量が獲れてから盛漁期が終わるまでの時期―などを例示しつつ、獲り控え期間中の金庫網の活用▽漁業者同士の収入のプール化▽漁業者別の目安漁獲量の設定▽(想定より多く魚が来遊した地域などにTACを与えるための)行政による留保枠開放や漁業者同士の枠融通▽やむを得ず枠を多く使ってしまった漁業者から、枠を使えなかった漁業者への収入の還元▽商品価値のない仔稚魚の養殖種苗としての活用や再放流―などを例示した。
定置網として、どの程度までの資源管理を工夫が可能で、どの程度以上工夫した上での枠超過なら留保枠などの融通策を採るか、といった議論が今後求められよう。
定置網からのブリの再放流の事例(早田大敷提供)
一般財団法人EDFジャパン(EDF Japan Foundation)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。
- みなと新聞電子版2023年10月16日配信
- みなと新聞電子版(会員限定):https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/137077
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