米国エンバイロメンタル・ディフェンス・ファンド(EDF)提供のもと水産資源の回復や有効活用を考える本連載。今回から隔週で漁獲量制限についての現場と国の意識のズレを整理し、埋め合わせを検討する。最初は沖合底引網(沖底)漁業者を束ねる全国底曳網漁業連合会(全底連、富岡啓二会長)の話を基に、課題解決を探る。
漁期・漁場選定など対策へ
政府は2018年、より多くの水産種に漁獲可能量(TAC)管理を広げる方針を発表。TACは①研究機関の科学研究に基づき、持続的な水準に漁獲を抑えられる②国全体で足並みをそろえた管理ができる―など、地域単位の自主管理にない利点を持つ。他方、漁業関係者からは、漁獲量制限が合わない漁業があるとの意見もある。
富岡会長は「資源管理に科学は必要」と語る。一方、漁獲量制限に際しては、狙っていない魚が獲れてしまう「混獲」に不安も強調にする。ある魚種がTACいっぱいまで獲れてしまうと、制限を超えてその魚種が混獲されるのを防ぐため、他魚種を狙う漁すら停止しかねない。「操業が止まれば、漁業者のみならず加工流通業にまで影響必至。だが現状、混獲に具体的にどう対処するか、方法は示されていない」と危機感を募らせる。
スマート化で小型魚保護も
底引網をはじめ複数の漁法で、混獲魚が入らないようにする漁具の改良も行われているが、これによって獲りたい魚まで逃げてしまうケースもある。そこで全底連が積極的に取り組むのが、小型魚保護のための漁場移動だ。
例えば、タブレット端末によって漁船同士をつなぎ、アカムツ小型魚が多く来遊している漁場の情報を共有し、回避する構想を掲げる。小型魚が成魚に育てば、可食部や脂肪が増え価格が上がりやすく、また産卵も増えて資源保全につながる。「小型魚を獲らない努力をし、それでも獲れてしまったものだけを出荷できれば」と担当者。こうした工夫は、漁場を移動しながら行うさまざまな漁法で応用できそうだ。
自主管理損なわぬIQ議論を
混獲の不利益回避策も必要
EDFは世界各地の事例から混獲防止策として、漁期を長めに設定し混獲物が漁場に少ないタイミングを見計らって操業する▽漁船が本格操業する前に試験操業を短期間にして混獲物が入らないか確かめる―などを提案。
やむを得ず起きる混獲への対処として、各漁船に一定量の混獲枠を与える▽特定種の枠に余裕のない漁船が他漁船からその枠を譲り受け、余裕のある種の枠と交換する▽混獲物の陸揚げの際、必要経費を除いた漁業者利益相当額を政府に還元し、資源管理などに役立てる―なども紹介する。
ただし、混獲枠や枠交換には、漁船ごとにTACを配分する個別漁獲割当(IQ)制が必要。IQ制では「漁船が枠を獲りきらないと経営者への背信と捉えられかねない。従来、小型魚を逃がすなどの自主的管理は、漁業者同士の紳士協定だったが、IQだと協定が守られなくなるのでは」(全底連)との懸念がある。実現を考える場合、自主的管理を損なわない方法も並行して議論する必要があるだろう。
また、例えばマダラのように、一部の個体群で、混獲回避が特に難しい定置網や刺網などが主力漁法となる魚種もある。全底連は「一部の漁村や海域だけ先に厳しい規制を受けたりしたら不公平」と、偏りの少ない制限を求める。
避けがたい混獲は漁業者の不安の種。これが起きる前提で対応策を準備することが、漁業者の安心につながる。漁業者が混獲回避策を十分に行ってもやむを得ず混獲してしまう場合に不利益が生じないよう考えたい。例を挙げるなら、価格の低い魚体が一定量以上入網した際には再放流をするが、再放流した漁業者がその様子を動画に残し、高価値サイズの個体を多く獲った漁業者から何らかの埋め合わせを受けられる…などだ。
水産庁は「漁業関係者と丁寧に対話し、一緒に課題解決を考えたい」と強調する。
例えば、漁獲の積み上がり方や漁場のデータを整理しつつ、沖底がマダラを狙っていない時期にどのように漁場を選べば混獲を抑えられるかなどを検討。また、定置網や刺網などによる漁獲の実態も踏まえ、既存のTAC管理の方法も参考にしながら、漁獲量が急増した際に対応できるTAC管理の柔軟な運用も考え、より良い漁業管理を目指すとする。
こうした議論は一時的に論争を呼ぶ可能性もあるが、長い目ではより多くの漁業者が納得する一助となると期待したい。
米国では漁業者や研究者らが協力し混獲回避漁具を開発した例も(EDF提供)
一般財団法人EDFジャパン(EDF Japan Foundation)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。
- みなと新聞電子版2023年09月15日配信
- みなと新聞電子版(会員限定):https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/136210
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