温室効果ガス抑制に要自覚

EDF企画 『どう向き合う、気候変動』― 4回シリーズ第3回

2021-06-11

洋上風力発電業者との調整も焦点

 気候変動などの変化に対応して操業を変えるだけでなく、気候変動自体をいかに抑えるかも大切。他国へ協力を求めることはもちろん、水産業界が率先しての温室効果ガスの排出削減も求められる。対応のため「漁業自体が大量の化石燃料消費に依存している。国際社会から気候変動の加害者と見なされ得る」という自覚も必要だ。 

気温変化による最大漁獲ポテンシャルの変化

 米国では気候変動対策に否定的な前大統領が退場し、活動が加速。日本政府もこの4月には、2030年までに二酸化炭素排出をベースラインから46%引き下げる野心的な目標を掲げた。今後は排出削減の加速が必要となる。 

 水産業界も気候変動の当事者になりつつある。人類が二酸化炭素排出を抑えない場合の2060年のインド洋・太平洋の最大漁獲可能量を約6割減、排出を厳格に抑えた場合で約2割減とみる予想がある。現状でも気候変動でかつてない大きなシケや悪天候が近年続き、操業の安全性が危ぶまれたり、出漁できない日が増えて稼働率が下がったり問題が出ている。 

 水産庁が4日に発表した「不漁問題に関する検討会」取りまとめには、次の旨が含まれる。漁船は温室効果ガスを多く排出しており、将来的には、化石燃料から蓄電池や水素燃料電池など脱炭素エネルギーへの切り替えが求められる▽漁船に求められる出力やエネルギー消費量と現状の電気推進船の技術を考えた際、早期に実現できるのは養殖作業船などに限られる▽漁船分野では各種省エネ対策に加え蓄電池とエンジンなどハイブリッド型の動力構成の研究、二酸化炭素排出の少ないエネルギーの活用など、段階的な技術実装が必要―。 

 同会座長を務めた宮原正典水産研究・教育機構前理事長は「1キロの魚を生産するのに、500ミリリットルもの化石燃料を使う。水産業全体を見ても、製氷、冷凍、加工など石油の使用量は多い」と指摘。風力発電など再生可能エネルギーと親和性を高めて、漁村に普及するであろう洋上風力発電を用い、安価な電力を電化漁船の稼働や陸上活動に生かしていくという未来を描く。 

水揚量と燃費費の関係

 同取りまとめでは、洋上風力発電について、エネルギーの地産地消の考えに基づき地域漁業との協力関係を築く必要がある▽関係漁業者との十分な調整を行い、発電所の音や振動の影響を把握することが重要―といった論点も示した。 

 実際、洋上風力発電の普及には、海面の使用権をめぐる漁業者との調整が必要。まずは発電業者側が丁寧に漁村側と対話し、漁業に極力負担のかからない海域の選び方などを探ることだろう。 

 洋上風力発電の利害調整に際し、複数の水産庁OBが不安視するのは、発電業者側が漁村のキーマンを“補償金・協力金攻撃”する展開。現金を受け入れ誘致賛成に回る漁村関係者と、現金を受け入れないまたは受け取れない立場から誘致に反対する関係者、両者が対立してしまう構図だ。 

 発電業者からすれば多額のコストがかかるせいで風力の普及の規模が小さくなったり遅れたりする上、漁村側からすれば、一部の関係者が短期的な利益を得るだけで、安価なエネルギーを得るチャンスを失い、内部に不協和音を抱える。再生可能エネルギーを推進する世界的な潮流の中で、他国や国内世論から「水産業が金品を要求するせいで風力発電が進まない」などと批判される展開も怖い。 

 発電業者側から漁村側には、一部関係者への短期的な補償金ではなく、長期的に安価な電力を使う権利や、地域水産業全体を振興するための長期的な投資などを提供するなど、前向きな共存を探ることが可能。このため水産庁や都道府県には話し合いの場づくりや仲介役としての指導などが求められそうだ。 

EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

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