若手・中堅漁業者への取材では、漁業管理の強化に対する不安の声が多数出た。不安を解消し、より多くの関係者による協力体制と資源回復を目指していくため、風通しの良い公明正大な議論が大きな鍵となる。
漁業管理で資源を回復させる際、管理策に納得する漁業者が少なければ、規則が破られる危険が高まる(連載第6回参照)。管理への利害や前向きさは漁業者それぞれ違う(第4回参照)が、考えの溝を話し合いで埋め、共通認識を強めることはできる。
ただ、取材では漁業管理の議論の風通しの悪さが垣間見えた。客観的な知見が活用されない管理策が多く、一部には漁業者が管理強化の必要性を表立って(匿名でしか)言えない状況(第4回参照)、管理を甘くする科学者の忖度(そんたく)(第3回参照)もある。水産改革についても、限られた情報が一部の漁業者に届いているのみ。一部の関係者だけが客観論や本音の言えない密室で議論することで、共通認識や納得ではなく不信感につながっていた。透明で公明正大な議論が必要だ。
国も議論の客観性と透明性を意識。昨年から、資源の量や増減などは科学者の会議で客観的に議論することとし、別に漁業者を交えて公に漁獲可能量(TAC)の設定ペースなどを決めるステークホルダー会合を置くなどしている。
水産研究・教育機構の宮原正典理事長は「漁協も科学者も行政も、おのおのの立場を固めてから主張し合うのでなく、オープンに話し合うのが重要では。行政は『この政策を』と説得するのではなく、漁業者も反対から入らず、科学者は『この解析結果を理解させよう』と力まず、まずはお互い謙虚に耳を傾け合う。そうして関係者同士の信頼関係を育てながら、資源の何が問題か、皆で共有できればよい。これが例えば『あの種の稚魚を守る』など目的の共有、漁業現場の『その目的のためならこうすべき、厳しくてもなんとかがんばろう』という対応につながる」とコメントする。
この連載のスポンサー、EDF(海洋保護基金)海洋部門大塚和彦日本代表は「連載を通じ、水産改革への期待と不安の両面が明らかになった。今後、透明性がある議論を通して現場の課題が解決され、改革の推進力となれば」と期待する。
漁業管理の議論は、人により状況認識や利害、意見が対立しやすい。そういうテーマを話し合うこと自体、勇気のいることかもしれない。だが議論で知恵を合わせ、協力体制をつくり、資源を回復できれば…世界的にも生産性の高いとされる日本の海だ。漁業者や加工流通業者、消費者に豊かな恵みをもたらしてくれる、そんな未来を期待できる。前向きな議論が広がり、水産業が元気を取り戻すよう、願ってやまない。
※この連載は今回でおわりです。
EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。
- みなと新聞電子版2020年12月10日配信
- 切り抜き紙面 (PDF, 620KB)
- みなと新聞電子版(会員限定):https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/107370
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