漁獲制御にきめ細かい減収補償を 国予算確保の優先順も課題

EDF企画 『若手・中堅漁業者に聞く!未来へのホンネ』9回シリーズ第7回

2020-12-08

 前回触れた通り、資源回復のために漁獲を制御する国の動きに対して、漁業者が行政からの減収補償を求める声は強い。水産庁は減収補償や、代替収入源となり得る資源調査事業を用意したい考えだが、漁業者から、行政予算についてよりきめ細かい補償や金額確保の優先順位について要望も聞こえる。 

アンケート:水産政策の優先順位

 アンケート時、水産改革を知っていた漁業者のうち43%は「漁業規制が厳しくなって漁業者の収入がしばらく減る」という印象を指摘。政府が科学的な漁獲制限を行う際に協力する条件として「制限を受ける漁業者に補償をする」には全回答者の88%が「必要」「とても必要」と答えた。 

 大分県で底引網に従事する山田和幸氏は、漁獲制限をかける行政側に「漁業者と対話し、声を聞いてほしい。『大漁を目指してきたのを制限され抵抗がある』『新しいことをするのがおっくう』『国の言うことだから』と頭ごなしにはじいてしまうなどあるかもしれない。だが(資源が)減った理由に納得でき、合理的で補償のある制限の話であれば、若い漁師は理解すると思う」と訴える。 

 今、漁業者の減収に対する国の補償に「漁業収入安定対策事業(積立ぷらす)」がある。今年は新型コロナウイルス禍もあり、同事業の基金が枯渇寸前。業界団体や自民党水産部会の議員から、年内の積み増しを求める声が殺到している。 

 本シリーズ第1回の通り政府に取り組んでほしい施策を順位付けする質問でも、同事業は平均スコア5.8点で2位。1位の「水産物の販売促進・飲食業の需要喚起」(6.9点)に次ぐ要望の強さだった。 

 山口県の匿名漁業者は「(漁業規制が)きつければ反発はあるはずだが、補償である程度抑えられるだろう。積立ぷらすや(燃油代の)セーフティネットなど、行政には感謝している。ただ、(積立ぷらすの制度上、多くの場合で補償額が)年々下がっていくことに不安感はある。(補償額が下がる前の)当初の額を補償する、他に休漁補償など支援策をつくる、などあれば」と提案。 

 最も要望の強かった需要喚起については同県の底引網漁業者、濱田秀樹氏が「コロナ禍でどの魚種も売れない。できるかわからないが以前(の需要)に戻れば」と語る。 

将来の見立てできる内容に 

 匿名で「国が漁業規制に補償を、という意見もあるが、規制は自分たちが良くなるためのこと。漁業者自身が意識を変えやるべきこと、できることがいくらでもある。やり尽くして、万策尽きる段階の手前の補償では。意識や志なくお金をもらっても生きない」など、補償依存への問題提起も2件あった。実際、漁業管理や資源回復は、漁業者自身の収入につなげるもの。収入が増えた後に国庫にお金を返す、など国に一方的に依存しない方法は考えられる。 

 水産庁は来年度、経営改善に取り組む認定漁業者への金融支援を開始予定。漁業者が資源管理による減収から回復するまでの間の低利融資が期待されるが、「返済できる見立てがないと不安。パヤオ(集魚装置)設置による魚種転換などがあれば」(北澤直諒氏=千葉県、釣)という声もある。見立てとして、資源回復予想の共有、予想通り回復しない場合の救済策などが求められる可能性がある。 

 同庁は漁獲可能量(TAC)管理下で漁獲を制限される沿岸漁業者などへの新たな支援として、資源調査や環境保全活動などに活動資金を出す予定で、漁業の代替収入にもなり得る。取材で同事業に「金額の規模的に十分か」(同)との不安意見はあったが、「県にもやってほしい」(匿名・引網)など賛成意見もあった。 

 近藤高行氏(愛媛県、底引網)からは「ワタリガニ資源の回復に向け、漁協青年部で単価の安い抱卵期の個体の放流を周囲に持ち掛け実現した。組合と市役所がお金を出して放流個体を買い上げている。すぐにお金になるので、他の漁業者の協力もすぐ得られた」という経験談も。守るべき魚を逃がした人にお金を払う形は、他地域でも応用できそうだ。 

 他方、予算の優先順位に注文も。「地元の資源量に比べ漁船が多く、このままなら共倒れ。船主1人当たりの稼働隻数を減らさざるを得ないのでは。学者に知恵を借り根気よく、数字で示せば手はあるはずだが、ナイーブなテーマなので皆『誰かが言ってくれる』のを待っている。行政が言ってくれればありがたいのだが。国は漁船リース事業をしているが、資源が減っているのに半額で漁船を造らせてどうする。資源調査や観光収入づくり、資源を守った人への補償などにお金を使ってほしい。仲買人に収入安定対策がないのも課題」(匿名)と踏み込んだ指摘だった。 

 現状の課題を直視し、未来につなげる減収補償策が求められている。 

EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

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