科学と触れ合う機会を 忖度排除や平易さも課題

EDF企画 『若手・中堅漁業者に聞く!未来へのホンネ』9回シリーズ第3回

2020-12-02

 若手・中堅漁業者が政府や水産改革に何を求めるか、解き明かす連載の第4回。取材対象者中、資源の減少を指摘する人と、資源の増減の原因究明を求める人はともに9割近くに及んだ。一方で科学的な資源評価を信じられないとした人も4割超。解消には、科学者と触れ合う機会づくりや、科学の説明を平易にすることが有効そうだ。この他、忖度(そんたく)のない科学を必要視する声もあった。 

アンケート:獲り過ぎの漁業は?

 第1回の通り、アンケートでは科学的な資源評価を信用する考えの回答が30%で、信用できない考えの回答が44%。背景に、科学者との距離感の遠さが考えられる。 

 漁獲の減少に対策する際、「減ったのは資源か漁業者か」などの検証が必要になる。ただ、日本海側の匿名漁業者からは「バイガイで1人頭の漁獲量が減っている。アマダイやフグも減ったと思うが、漁協から情報がない。示してほしい」との声も。国の科学分析でも日本海のトラフグやアカアマダイの資源は減っているとされているが、共有されていないようだ。 

 「マチ(ハマダイ)類の小型魚の漁獲を避けるべく個人的にネットで回遊情報を調べている。県の普及員とがっつり科学的な話をした記憶はない。数字(データ)があったとしても認知度は低いのでは。『ここを検索すれば出る』などがあれば」(宮城賢司氏=沖縄県、釣)、「難しく科学を話されても分からない、簡単な説明を」(近藤高行氏=愛媛県、底引網)との指摘もあった。 

 科学者と触れ合う機会を求める意見も複数。資源評価と漁業者の感覚のずれを指摘した北澤直諒氏(千葉県、釣)は「(科学者とのずれを埋めるには)実際に船に乗ってもらうのが一番では」とした。

 愛媛県で素潜り漁を営む阿部和馬氏は「資源の科学情報には興味がある。『マダカアワビは一定数を割ると次世代を産めなくなる』などと勉強して若手漁業者で共有、種苗放流の効率向上などを話し合っている。きっかけは、地元行政と漁協の運営する種苗センターの職員との出会い。同年代で気が合い、地元の海の特徴や資料類のこと、数年先を見据えた漁業のあり方など多くについて教えてくれた。その後、個人でもインターネットで他地域の情報や資料を得ることになった」と振り返る。「文字ばかりの科学の資料を読まされるより、会話のキャッチボールが大切。科学者と漁業者で食事などの機会づくりも、漁業者の科学に対する抵抗感を払拭(ふっしょく)し、双方の信頼感を築く意義があると思う」と付け加えた。 

不公平な判断や責任転嫁も問題に 

 一部漁業者からは匿名で「年配漁業者ほど『科学は当てにならない』となりがち」という問題提起も。宮城県で刺網を操業する阿部誠二氏は「父親くらいの世代の人は『潮や水温が悪い、昔は獲れたからまた獲れる』と簡単に片付けがちで、自分たちが獲り過ぎたという人は少ない。人は信じたいところだけ信じてしまうことがある。俺たちのせいじゃないよという言い回しが目立つ」という指摘もあった。 

 アンケートでも、獲り過ぎを感じている漁業者32人に原因を聞いた質問では、「どちらかといえば自身の主力漁法」「自身の主力漁法」との回答が28%、「どちらかといえば別の漁業」「別の漁業」が47%。自分たちより他者の責任を感じる人が多かった。 

 匿名漁業者からは「漁業者が人の意見に耳を傾けるのが苦手なのも問題。研究者から明確に(漁獲を減らす必要性を)言われると感情的になりがち。願望込みで環境変動を挙げ(漁業管理に)問題がないと本気で思っている人も、漁獲を減らされたくなくてそう言っている人もいると思う。漁業者に怒られ、意見を変える研究者もいる。研究者はあまり地域に入り込むと色眼鏡で見てしまうかもしれない。公平な目で見るなら外部の研究者が必要では」と、忖度抜きの科学を求める声もあった。 

次回は、改革をめぐる漁業者と国の意識の乖離(かいり)を考える。 

EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

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