漁業者アンケート回答者の9割は資源の減少を問題視した。原因に挙がったのは環境要因が中心で、獲り過ぎも過半数。現時点の科学への信頼度は高くなかった一方で、共通して資源減の原因究明を求める傾向があった。操業効率の向上も含め、科学へのニーズは高まっているようだ。
資源減の原因に複数の視点
前回の通り、アンケート回答者の9割方は資源の減少を実感している。資源減の原因を問う質問では、89%が水温や海流の変化を挙げた。
インタビューでも水温変化の影響として「魚が沖に移動し陸近くにいなくなった。皆、そう感じているようだ」(匿名・大中型巻網)、「海藻の種類が変わりサザエやアワビの餌が減ったとベテラン漁業者に言われる」(阿部和馬氏=愛媛県、素潜り漁)と指摘された。
獲り過ぎを感じるとした回答も54%と過半数。「対象魚種の資源が激減している。海流などの環境が変わっていると思うし、それは海水温や資源の育ちに影響し得る。だがその種が地球に現れてから環境変動はあったはず。それを生き延びて今減少しているので、減少の一番の原因は人間と思う」(匿名・船引網)との問題提起があった。
一方、国が過剰漁獲と分析するキンメダイについて、「千葉・勝浦沖の漁業者は年々(自主)規制をきつくしており、資源はあると思う。(単位漁獲努力当たりの漁獲量などが減っているという分析について)調査法は聞いていなかったが、近年は潮が速くなりすぎて餌を狙ったポイントに落とせないなどがある。それでも釣れるし、魚の分布範囲は広いのでは」(北澤直諒氏=千葉県、釣)という意見もあった。
その他、環境条件については「海底を掘り返す底引網が減り、底質が硬くなって、底魚の分布が変わっていると思う。藻場の減少、排水の浄化による海の栄養不足、クラゲの大発生なども問題。獲り過ぎはないと思う」(濱田秀樹氏=山口県、底引網)、「サザエやアワビの餌になる藻が減ったと高齢層から聞く。また海底が埃(ほこり)をかぶるように汚くなった」(阿部和馬氏)などの指摘もあった。アンケートで61%の回答者が指摘した汚染や栄養条件の変化ともつながる話だ。
科学を信じずとも期待感は存在
前回の通り、科学的な資源評価を信用できない人が44%いた。だが一方、政府が科学的な漁獲制限を行う際に協力する条件として「魚介が減ったり増えたりする理由を解明する」に計86%の回答者が「必要」「とても必要」と回答するなど、国に資源減の原因究明を求める意見は多い。漁業者本人の科学への信頼度の高さや獲り過ぎを問題視するか否かにかかわらず、資源減の実態解明を求める格好となった。
インタビューでも、過剰漁獲が問題だとした匿名漁業者から「資源の減った原因を検証していない。よしんば増えても、原因が分からなければ同じことを繰り返す」、環境要因を問題視した濱田氏から「(資源が)減った、増えたの根拠があまり示されていない。これが前提にあって初めて『こうしよう、ああしよう』になる。単純な感覚でなく、まずはデータを示すべき」と聞かれた。
気候変動などで獲れる魚種が変わる中、「温かい水を好むサワラやタチウオが見られるようになった。今後獲れそうな魚種のデータを早めに集め、早めに資源管理を」(阿部誠二氏=宮城県、刺網)との声も。漁場予測のため「水温や潮流の予測をもう少しがんばってほしい」(匿名・大中型巻網)、「水温が分かれば潮周りや漁獲と照らし合わせられる」(濱田氏)という注文もあった。
漁業現場での科学へのニーズが見えてきたところで、次回は実際に科学を活用するための課題について考える。
EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。
- みなと新聞電子版2020年12月1日配信
- 切り抜き紙面 (PDF, 870KB)
- みなと新聞電子版(会員限定):https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/107082
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