最大の課題「減収」対策 政策手当てや魚価向上を

EDF企画 『日本の資源管理最前線』― 8回シリーズ第7回

2020-02-26

【不安6. 減収は埋め合わせられるか】 

 資源を増やすため、漁獲を抑える資源管理。実際に獲り控えする時、漁業関係者に最も不安なのは減収だろう。取材中、関係者から「資源管理は『自主規制がよい』という人も多いが、実際は上(行政)から言わなければできない。魚の回遊範囲の漁業規則の統一、監視だけでなく、代替収入が必要だからだ。漁業者の本音は『お上が言うならやるよ。でも埋め合わせでお金ちょうだい』では」「資源の状態を知るためデータの収集などには協力したい。だが、それで国が資源状態の悪さに目を付け、規制となると困る」などの声も聞かれた。では、減収への備えに何ができるか。 

豊富な魚を獲る  

 国によると、1月末時点で科学的な評価のある80の資源のうち44%は低位の(少ない)状態。ただ、高位のものも24%あり、他にも太平洋のマサバやマイワシのように、近年増えつつある資源もいる。増えた魚を獲り、高い値で売れれば、減った魚種を守りながら水産業の経営も続けられる。 

 マイワシの価値を高めているのが池下産業(北海道広尾町)。主力製品はフィッシュミールなど養殖餌関係だが、脂ののった質の高い個体だけをえりすぐって鮮度管理を徹底、冷凍の「大トロいわし」として一般的な鮮魚の2.5倍の価格での出荷に成功している。 

 三重県で定置網など複数の漁場で魚を獲り、東京都内で居酒屋チェーンを抱えるゲイトは、漁場の近くに水産加工場も運営。市場価格の低い魚種が獲れても、その種に合った調理方法を開発して冷凍、都内の飲食店で提供し、売価をつけている。 

値の付かない魚も調理法の工夫でおいしく
写真: 値の付かないアイゴやイスズミなども調理法の工夫でおいしく提供するゲイト。松井隆宏東京海洋大准教授提供

 沖縄では「環境に優しいモズク養殖で漁業者が副収入を得て、漁業管理が進めやすくなった」(沖縄県水産海洋技術センター秋田雄一研究員)という証言もある。 

コストを抑える 

 そもそも「漁獲を抑えること=漁業者が減収すること」とも限らない。例えば福島県の底引網では、昭和後期に、休漁日を増やしたところ漁獲金額が上がった。魚の獲れ過ぎによる値崩れを防いだためだ。「最初は関係者の間で(漁獲を控えてして)経営が成り立つか、など騒ぎになった。1カ月(休漁の増加を)やってみると、前年同月よりも漁獲が減ったものの、金額が上がっていた」(福島県機船底曳網漁業組合連合会)。高騰した燃油も無駄遣いせずに済んだ。 

 漁獲を抑えることで漁業者が減収する場合、行政がお金を出して埋め合わせることもできる。 

 沖縄では、行政が漁船で水産資源の状態を調査する場合がある。これについて同県の漁業者、柳田一平氏は「給料がつくのでありがたい。このように、資源を守る活動にお金がつくのは大切」と語る。

 そして今、減収対策の核となっているのが国の漁業収入安定対策事業。行政に「資源管理計画」の認定を受けた漁業者が減収になった時、補償を行う。クロマグロの資源管理を強める静岡県定置漁業協会の日吉直人会長は「クロマグロ管理は、通常より手厚い収入安定対策で国から応援されている。しっかりやらないと申し訳ない」と語る。自民党には「同事業は資源管理強化の前提条件」と訴える水産系議員も多い。事業の有効活用は、今後も減収対策の鍵となる。 

静岡の定置網の自主規制を引っ張る
写真: 静岡の定置網の自主規制を引っ張る日吉会長(手前から2人目)

 また、資源管理で一時的に漁獲量が減る場合、水産加工流通業者が商材を集めづらくなることも予想される。漁獲が回復するまで、加工流通業者への減収対策や、輸入魚の仕入れにかかる経費の支援も課題となり得る。 

 漁業の減収は、行政による手当てと漁業者自身による工夫、両輪から対策を考えられそうだ。 

EDF(環境保護基金)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

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