発生量乱高下に対応必要

【連載】不確かな未来にどう備える〈3〉

2023-10-02

 米国のエンバイロメンタル・ディフェンス・ファンド(EDF)提供の下、水産資源の回復や有効活用を考える本連載。前回に続き、漁獲可能量(TAC)の制限に対する漁業現場の不安を整理する。前回は、狙っていない魚種が獲れてしまう「混獲」が問題となったが、混獲が比較的少ないカタクチイワシへのTACにも不安論は強い。焦点は資源予測の「不確実性」との向き合い方だ。

カタクチTAC改良議論を柔軟性と客観性の両立へ

 国は現在、目標(最大持続生産量〈MSY〉水準)以上の親魚を自然界に獲り残し、十分な産卵をさせることで、長い目で見て漁獲量を最大化させようと、TACの対象種拡大を目指している。愛知県水産試験場漁業生産研究所海洋資源グループは「MSYの考え方自体に異存はない」としつつも、カタクチへのTAC導入には慎重姿勢。主な理由は、環境要因による資源変動への対策不足と、漁獲を抑えることの必要性への疑問とする。

 同種は年ごとの環境条件次第で仔魚が大量死したり、逆に多く生き残って大発生したりしやすい。現状のTAC制度では、2年前までの漁獲データを基にしつつ平均的な発生量を想定して漁期前に漁獲量の上限を決めるが、特に0歳魚が漁獲の多くを占める同種では、いざ漁期に入ってから、想定より発生が多すぎたり少なすぎたりとなりやすい。同グループを含む自治体や漁業関係者から「獲れるはずの量を半分に抑えるようなケースが出る。厳しい制限は漁業経営に痛手だ」と懸念が出ている。

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  また同グループは、伊勢・三河湾内で、既に漁期の一部における禁漁区の設置などが行われていると強調する。禁漁時期は毎年、湾内に現れた資源や魚卵の量を追跡し、漁業者と県水試で連絡し合いながら決める。シラス出荷には大きすぎる個体がより大きな養殖餌サイズに育つまで保護したり、春に湾内に来遊して夏に産卵しシラスを供給してくれる親魚を確保したりするために定めている。発生量が読めない上に湾の外からも来遊する資源を、来遊状況に合わせながら極力経済価値の高い状態で獲る工夫だ。このような、来遊状況に合わせる柔軟な管理を損なうべきではないと同グループは訴える。

 また同グループは、同種太平洋系群について、強い獲り控えが不要だと主張。主な根拠として、同群についての①親魚が多い年に子世代が発生しづらくなる傾向(密度効果)が示される②漁獲よりも近年増えているサバに多く捕食されていると試算できる③調査の及ばない範囲も含めると、国の推定以上の資源がいる可能性がある④伊勢三河湾や瀬戸内海など沿岸域では沖合域と比べて資源や漁獲が安定している―といった見解を掲げる。

 国の資源評価を主導する水産研究・教育機構も、沿岸の資源が沖合より安定していると認める。一方で、マサバとカタクチとの生息場の被り方やカタクチの発生状況まで考えると、マサバの捕食の影響をそこまで大きく見積もれないともみる。愛知をはじめ産地側の意見から学ぶことは多いが、意見の採用には、十分な客観的根拠の提出が産地側に求められよう。近年は魚市場や漁船などに機器類を導入することで、リアルタイムで漁獲量や資源量指標値を把握する技術の開発が進む。こうした技術を使うなどで、より客観的に資源や環境を追っていきたい。

 沿岸漁業で重要なカタクチのシラスは、一定数が沖合域の親魚から生まれているとみられ、沖合の親魚量を保つことは必要であろう。水産庁は、沿岸・沖合の漁業者全体で足並みをそろえて獲り控えをするため、TACによる法的管理を目指す。「同種は、仔魚が生き残りやすい/生き残りづらい年代が分かれる。資源評価では、2010年代途中から生き残りづらい年代に入ったが、その後しばらく漁獲が十分に抑えられず、結果として資源の減少が加速し、回復も遅れたと考えられる。環境の変化を踏まえ、関係者全員で資源を有効活用する仕組みは必要」(同庁)との考えだ。

 従来のTAC制度で資源発生の増減に対処しきれない、資源の科学が不確実、というのは事実。資源の発生が多い年に枠を増やす、少ない年に減らす、それを誤りなく行う努力が重要となる。だが一方で、海中を科学で把握することは「いつか完璧にできるわけではない」(同)。国連公海漁業協定(日本水域も対象)も、科学の不確実性を理由に資源管理を弱め先延ばすことは禁じている。科学やTACを不確実だからと否定するのではなく、欠点を受け入れつつ、官民協力して改善する姿勢が求められる。

 同庁は9月15日、カタクチ資源の漁獲状況をモニターしながら、一定の基準を満たした場合には迅速にTACを増量する方法を検討する方針を発表した。このように、漁業現場の実情に合わせ柔軟性を持たせつつも実効的に漁獲を制御すべく、方法を改良し続けることが、より確実に漁業の将来を守るため重要ではないだろうか。

Ise-Mikawa Bay

 

一般財団法人EDFジャパン(EDF Japan Foundation)提供。本記事は、みなと新聞の許可を得て転載しています。

 

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